北穂東稜
● 報告
ここ数年、クライミングのモチベーションが下がる一方で岩登りはほとんどしていなかったけれど、M田さんに、「この夏、岩登りに行こう」と声をかけていただき、久しぶりに行ってみようかなぁという気になった。
とりあえず、久しぶりの岩なので、いろいろ考えた結果、簡単なところにしようということで、滝谷ドーム中央稜か北岳バットレス中央稜のどちらかに行こうということなった。ところが、山行前に予定していた練習日が大雨で中止に・・。う〜ん、今のわたしの状況で、金比羅に1回行っただけで、アルプスでの岩登りはきついなと思い、夏山行の中止も考えたけれど、北穂の東稜と前穂の北尾根だったら、大丈夫かなと思い、M田さんと相談し、そこに決定した。北穂の東稜と前穂の北尾根は、前から行ってみたかった岩稜だった。当初は、M田さんと二人での計画だったけれど、急遽、T橋さんも参加いただけることになった。このメンバー、どこかで一緒だったような、、、と思ったら、2003年の夏に滝谷第4尾根をM田さんとT橋さんとわたしとkさんの4人で、登ったのを思い出した。
晴れマークだった週間予報がいつの間にか曇りと雨になってしまい、天候を気にしつつも、いつも通り前夜発で出発。ニュースでは帰省ラッシュが始まっていると流れていたけれど、スムーズに車は流れて平湯のあかんだな駐車場に到着。昨年の秋、自転車で平湯からぐるっと野麦峠、乗鞍スカイラインをがんばって走ったのが懐かしかった!!
あかんだな駐車場からバスで30分ほど(往復で2000円)で上高地に到着。相変わらず観光客でいっぱいだった。上高地に着くと雨が降っていたけれど、朝ご飯を食べているうちに止んでほっとした。「さぁ、山に入るぞ〜」とワクワク気分で出発。
横尾までは平坦な道をひたすら歩く。無雪期の上高地は初めてだったけれど、夏山の緑、梓川きれいな水流、かわいい花に癒されながらも、曇り空なのに湿度が高いせいかムシムシ暑く、ザックの重さもあってか大量に汗をかく。久しぶりに持った、ロープ、ギアが入った重たいザックが、次第に肩にくいこんでくる・・。
横尾からは少しずつ登りに入る。横尾から涸沢までの間は、ハイキング感覚のおしゃれな若い人たちや、家族で登山している人が多かったのにびっくりした。小さい子どもたちが元気にかけあがっていくのを見ながら、わたしはマイペースにゆっくり歩く。樹林を抜けて小屋が目の前に見えると雪渓が出てくる。M田さんによると例年より多いらしい。トレースは階段状になっており、全く問題ない。
ようやく涸沢ヒュッテに着いたころには、雲行きがあやしくどんより空。長袖一枚では寒く、フリースとレインを着る。涸沢カールの雪渓もたくさん残っていた。涸沢ヒュッテから涸沢小屋までの登山道より雪渓側と反対側にテントを張った際、台風でテントが浸水したというM田さんの経験を活かし、トイレと水場から一番遠くなってしまったけれど、雪渓側に張ることにする。お陰で翌日の大雨でも大きな影響はなかった。テントを張り終わって、ご飯を食べ出したころから大雨と雷になった。天気が回復することを期待していただけに、一気にテンションが下がる。明日以降の行動は、明日の朝の天気次第ということで、この日は就寝。夜中、雨が降ったり止んだり。
二日目の朝、まだ雨が降っている。強くなったり、弱くなったり。雨のなかの岩は絶対にいやだなと思ったけれど、東稜であれば大丈夫とのM田さんのお言葉。少し雨が弱くなるのを待ってから、10時をまわってのスロースタートでテン場を出発した。しばらく南稜を登って行く。半分ほど登った大きく西へ曲がる手前あたり(南稜の登山道で鎖が出てくる手前あたり)で、南稜の登山道から東稜の方へ方向転換。ルンゼをトラバース。このあたりまで雨がぽつぽつ降っていた。「この天気のなか行くんですか〜?」と思わずM田さんに確認。「東稜だったら問題ない」というM田さんの一言で、出発(M田さんのお言葉通り、この後、どんより曇り空だったけれど、雨は降らず、問題なく登れた。わたしがリーダーだったら間違いなく引き返してしまっていたナ・・)。
広いルンゼを横切り東稜の下まで行く。大きな岩も点在し、少しガレガレ。東稜の南西側を登って稜線に出た。稜線からは、屏風の頭、涸沢、北尾根、北穂など、ぐる〜と山々を見渡せ、やっぱり稜線は本当に気持ちがいい。お天気が芳しくなく気が重かったのもどこかへ吹っ飛んでしまう。さらに、途中、イワカガミやヨツバシオガマ、イワギキョウ、ハクサンフウロ、チングルマ、イワツメグザなどなどかわいい高山植物が楽しませてくれる。
東稜は、普通の岩稜歩きのような感じで全く問題なかった。「雨でも登れる」というM田さんの言葉がようやく分かった。1箇所だけゴジラの背というポイントがあってキレットの飛騨泣きのような感じだけど、少し岩をしていればロープなしで大丈夫な感じのところだった。ただ私はゴジラの背に行く手前で、短い足が届かず、モタモタしてしまった・・・。沢登りでも同じようなことが言えるけれど、ロープを使って登る壁のルートと違って、ロープを出さないこうしたところの方が怖さを感じてしまう。
ゴジラの背を越えると先行している3人パーティが見えた。ここからは本当に普通の登山道のような感じ。あっという間に北穂の登山道と合流し、小屋に着いた。
北穂の小屋は登山者でいっぱいだった。その光景は6年前とほとんど変わらず、槍からキレットを縦走して北穂の小屋に到着したことが懐かしく思い出された。ここでホットミルクを飲んで大休憩。携帯もつながる。まわりで携帯を使って大声で話している人も何人かいた。携帯が普及し、携帯のつながる山が増えて、いろんな人が気軽に登山できるようになってきているんだろうなと思った。
北穂からは、南稜を通って、テン場に戻る。南稜からは東稜がきれいに見えた。涸沢小屋からは北尾根がきれいに見えた。ここでM田さんから5・6のコルへ行くアプローチを教えてもらう。
テン場に戻ると、なんとK藤さんが出迎えてくれた!!一人で大縦走を計画して入山したとのこと。山で思わぬ出会いがあると、とってもうれしい。そういえばK藤さんとは2年前の夏にも室堂でばったり偶然出会ったことがある。
この日は、シュラフに入ったころから大雨になった。夜中、きつい雨が降り続けた。翌日は、もし午前中曇りであれば、3時に起きて、午前中に北尾根を登ってしまおうという話になっていたけれど、3時の時点で大雨、そして、また6時に起床したけれどやはり雨。結局、起きたのは7時半・・・。この雨で北尾根は厳しいということになり、下山することになった。
今回の山行は、久しぶりの岩歩きを目的としていた。残念ながらお天気に恵まれなかったけれど、やっぱり山は気持ちいいなぁと思えたのでよかった。十分リハビリ山行になったように思う。また、リーダーの適切な判断のお陰で、東稜だけでも行けてよかった。ありがとうございました!
● 感想
【M田】
あかんだな駐車場もはじめてだったし涸沢行きも久しぶりだった。上高地はもちろん徳沢や横尾また涸沢ヒュッテも変化していた。上高地には公共のやたら新しい建物が増えていた。明神あたりはあまり変わっていないように見えた。徳沢の旧村営小屋は日帰り入浴の張り紙をだしていたり、レストランや喫茶は徳沢園でお願いしますと書かれていたし、テント村用の水場が新設されていた。横尾小屋はかなり増設されていた。涸沢ヒュッテも改築がされていた
山のほうは、入山初日に雨の合間をぬって行った北穂東稜は変わっていなかったが、足並みが揃っていた今回はあまりにもあっけなくすんでしまった。ただし、ここも稜線そのものを久しぶりに通ったのでそれなりに面白かったし、登り詰めたところにある北穂の小屋は昔と変わらず親切でよかった。ラーメンは午後1時までとのことで行動食を食べた。
テントに戻る直前、なんとK藤さんが迎えに来てくれた。「エー、なんでぇー」とびっくりしたがおかげで夜は4人で楽しく話が弾んだ。翌日予定の前穂北尾根は大雨でさすがに行く気がしなかった。涸沢のテント村は盆そのものでないためもあってか例年に比べて少ないようであった。今回は自分としては、まぁ、久しぶりの泊まり山行であったが結構元気に歩けてよかったと思う。夏に逃した北尾根はまた冬にでも行こうと思う。誰か行こうぜー。
それにしても、今年の梅雨時期から夏にかけての天候は困りましたなぁ。私らのほうでは昨8月15日なんかは夜になるとまさに秋が始まったという感じでした。同行のお二方、ありがとうございました。
【T橋】
天気がいま一つパッとしない中、何とか晴れ間を縫って登攀できないか、という希望的な観測のもと出発した。
入山当日の朝、曇りの合間に時折晴れ間が顔を出す、これはいけるかもと思いながら歩いた。
上高地からの入山はO村さんと屏風岩東壁を登攀して以来だから三年ぶりである。しっとりと湿り気を帯びた登山道(?)を景色を楽しみながら歩くのも、また、風情があって楽しい。途中小雨に遭いながらもしっかり初日を楽しめた。
二日目、夜明け前から断続的に強弱アクセントをつけて、雷照明付きの雨が降り続いた。半ば気持の萎えるなか、なぜか山の神は登攀のチャンスを与えてくれた。雨は降りやみ、風が岩を乾かしてくれた。太陽が強く照らすよりは快適な登りだったかもしれない。稜線にでてからは快適な登攀。ストレスを感じることなく雲の合間の景色を楽しみ、花を愛でながら、実に楽しい登攀であった。ゴジラの背は東綾のアクセント。いつもの山頂ヤッホーもいいが、ここでは背ビレの上で皆で”ガオー!”が”物の道理”のような気がする。が、そのいずれも忘れてしまったのが残念。
結局この日は涸沢ベースに戻るまで雨に遭わず。ラッキーでした。
三日目、夜中から強雨。天気予報は台風来週を告げ翌日の見込みもないので、下山。残念でしたが、楽しく過ごせた三日間でした。M田さん、T久井さん、ありがとうございました。