沢&縦走@南ア深南部・信濃俣河内から大根沢山、光岳へ周回
3年前、夏の沢合宿で信濃俣河内を易老岳へと遡行した。
その時に中俣沢と本流の出合に垂下する尾根の末端が登れるか観察しておいた。
信濃俣河内は、第1から第3ゴルジュがある。
第2ゴルジュは悪いが第1・第3ゴルジュはさしたる困難は無い。
むしろこの沢は水量が鍵を握る。
下山の尾根は第1ゴルジュ手前に降り立つ予定だ。
深南部の縦走では大根沢山から光岳までの間がまだ歩いていない最後の区間で残っている。
今回はこの区間の縦走にあたり、信濃俣河内流域の支流や尾根を利用することで光岳から一般道での茶臼廻りの長い道程を短縮し、また、入山口、下山口を同じ場所にすることで周回の形態をとれるので2泊3日の行程で十分縦走が可能だ。
ただし、縦走には必要の無い沢装備が余計に必要で荷が重くなるのが難点だ。
その分、沢、縦走を同時に楽しめる変化に富んだ山行ができるのが楽しみだ。
信濃俣河内の支流である西河内を詰めるため、縦走の起点となる大根沢山へはブナ沢のコルからの空身での往復とした。
ロープ等、若干の登攀具も持参することにした。
【行程1日目】行動時間 7時間40分 天気 晴れ時々曇り
畑薙第一ダム6:25?7:05信濃俣大吊橋7:10?(信濃俣河内遡行)?9:35本流・西河内出合9:55?(西河内遡行)?11:20 1,290m二俣11:30?13:45ブナ沢のコル13:55?14:05 1,849m峰
畑薙第一ダムから西河内出合まで信濃俣河内本流を遡行
畑薙第一ダムから林道に入ってすぐに道が土砂に埋まっており車はここまで。
ここから歩き出すが、同じように土砂で埋まった個所を何箇所も渡る。
3年前は尾根の端まで車で入れたが、変貌振りにビックリ。
20分ほどで尾根の端を回り込み、さらに5分ほどで吊橋への降り口へ。
急な山道をジグザグに下降し、信濃俣大吊橋を渡る。
3年前よりも一層傾いており、中央部では片方のロープに頼って慎重に歩く。
もう数年すれば渡れなくなるのではないだろうか?
渡り始めでは夜露で濡れた幅20cmの踏み板の上で滑って大いに肝を冷やした。
対岸に渡って左に続く杣道に進む。
この道はところどころ山抜けや急崖での狭いトラバースが続き、気が抜けない。
しかし、以前の沢登りで利用しているのでおおよその状況は分っている。
バックウォーターまで進んで頃合を見計らって川原に下りる。
広々として気持ちが良い。
しかし何か変だ。細かな粘土質の砂が川原の石の上を覆っていて黒々としている。
さらに川の水は茶色く濁っていて深さは全く分らない。
ここ1日半ほどは雨が降っていない筈だが何故だろうか。
ともあれ、沢靴に履き替え、重い登山靴をザックに詰める。
さて、ここからはしばらく単調な川原歩きが続く。
何度も渡渉を繰り返すが、川幅が広く、水流は何条にも分かれているため渡渉は容易だ。
大きく蛇行を繰り返して1時間ほどですっかり土砂に埋まった堰堤を通り過ぎて少し休憩。
川面の上からサルナシの実をたくさん付けた蔓が垂れ下がっている。
飛びついて何房か採り、その場で実を食べる。
よく熟れていて美味しい。
広く明るい平らな流れを辿るのは、天気もよく気分爽快だ。
しかし、沢水は相変わらず濁ったまま。
堰堤から500mほど行ったところで水流が1本に集まり、少し流れの強い個所を渡渉した。
ちょうど木の枝が流れの上を這っている個所があり、枝を掴んでここを渡る。
私が渡った後、Y本さんが渡るがどうしたことか枝を手で掴んだままは良いが、体が流れの中に持っていかれた。
ずっと流されるほどではないが全身水の中に浸かって濡れねずみ。
もう一度兆戦したがやはり渡れない。
そこで、ザックを私が背負って渡り、Y本さんは空身となってやっと渡ることができた。
単調な沢をさらに進み、滝の掛かるアシ沢出合の手前で左岸の低い岩を越えた先が淀みになっている個所に着いた。
岸寄りは浅く砂が堆積している所がある。砂の上は黒く粘土質の砂が乗っている。
その上を簡単に渡れると思い進む。
すると足が泥の中にどんどん深く沈み込み、一瞬焦った。底なし沼を連想し、慌てて足を交互に出して渡り切った。
それを後ろから見ていたY本さんは素早く渡るが、足をとられやはり焦っていた。
大雨で様相が変ったことが想像できるが、それにしてもこの濁りや泥はいったいどこから来るのだろうか?
前回遡行した時の水の澄んだ綺麗な流れとは大違いだ。
アシ沢出合のすぐ先で信濃俣河内本流と西河内の出合となる。
ここでしばし休憩。
水も冷たくなく、心地良い微風が吹いていて沢日和だ。
西河内を遡行しブナ沢のコル先の1,849m峰まで
西河内に進路を採る。本流からの水はやはり濃く茶色に濁っている。
西河内の水は綺麗に透き通っている。
濁りの原因に疑問が残ったまま出合を出発。
やはり沢水は透明感が無ければ面白くないし、美しくも無い。
やがて河床が黒くなり、ちょっとしたミニゴルジュの様相になってきた。
しかし長くは続かず、小さな滝が2つほどあった後はまた穏やかな平凡な流れとなる。
カバ沢を右に分け、さらに平凡に高度を稼ぐと左から大きな崩れが望める個所を過ぎる。その少し先で、沢がまた二分する。標高1,290mの二俣だ。
今度はここを右に進み、高度を80mほど稼ぐと、さらに二分する。
水量はどちらも同じくらい。
ここで迷ったが、まずは登り易そうな左に入る。
この左の沢は大根沢山頂台地の北の大きな薙が源頭となっている。
この沢を30mほど上がると、沢水は自然と右の斜面状の窪地に続いている。
この流れの方向に進路を変え(右に振る)、やがて緑の苔蒸した林床下の流れを追う。
直ぐ右手にも下方で分かれた沢が並行しているが、流れは途絶えているようだ。
礫の堆積した末端である標高1,560mあたりで水が途絶える。
今夜と明日の行動用の水を各自3.5L汲む。
直ぐ上は明るい色の礫が堆積した広大な斜面となっている。
ここで沢筋は二分し、自然と右に入る。
大粒の崩れやすくて歩き難い角張った礫を踏みしめ進む。
50mほど高度を稼ぎ、さらに右の沢に移る。
右の山端を進み、どんどん高度を稼ぐ。
標高1,650mで右手の微小な張り出しの小尾根の端を過ぎたところで、右手が明るく浅く開けた斜面状となった個所に出た。
この斜面に進むべく、またもや右手に進路を変える。
下草の無いシラビソ林の中を上部に詰めていくとピンポイントでブナ沢のコルに着いた。読図は満点だった。
ここはコルの真上と10m南の寸又側に2?3m下がった場所にテントを張れるスペースがある。
しかし、コルに着くと、コルを渡る風が思ったよりも強い。
今日はここでテントを張るには風当たりが強く快適ではなさそうだ。
そこで、様子を見に空身で1,849m峰まで北に上がってみた。
すると、コルと違い、風が無く平で、落ち葉でふかふかのいい場所が見つかった。
少し南からは大根沢山の北面の眺めもよい。
Y本さんを待たせたコルに戻って荷を担ぎ再度登り返す。
計画では今日中に大根沢山に登る予定だが、稜線では風が吹き出したこと、ガスが高い山に掛かり始めていること、Y本さんの睡眠不足を考え明日登ることにする。
14時20分、テントを張り終え、早めに夕飯を食べる。
16時頃には早くもY本さんは完全に就寝。
久し振りの本格的な山行にお疲れだったようだ。
私には疲れは無く、外で寝転がって少しお酒をたしなみながら夕間暮れを楽しむ。
明日の行程を地形図から考察したりして過ごす。時おり鹿の声がどこからか響いてくる。
夜になって風も収まり、冷え込みも無く非常に快適。
夜の主、梟の声が山々に木霊して山に居る時間を実感する。
【行程2日目】行動時間 10時間45分 天気 晴れ 午後時々曇り
1,849m峰5:45?6:55大根沢山7:15?8:10 1,849m峰8:30?10:40 2,107m峰11:00?椹沢山12:10?12:20信濃俣12:45?15:10百俣沢の頭15:25?16:30光小屋
1,849m峰からブナ沢のコルを経て大根沢山へ往復
朝の冷え込みは無かったが、快晴となった。
ブナ沢のコルに下り、そこから約450mの上りだ。
私が二人分の荷を持つが軽い。
Y本さんは空身なので快調に高度を稼ぐ。
岩場の下りが僅かにあるだけで、ほぼ上り一方。
ゆっくり息を整えて急登に耐える。
途中、これから辿る信濃俣、光岳方面の山並みが見渡せ、気分爽快。
しっとりとした樹林は上部に行くほど、踏み跡が不明瞭となるが、左が急崖なので進路は明快だ。
山頂の北辺に登り着くと一気に平坦となる。
明神林道への古い道標が木に打ち付けてある。
苔蒸した美しい原生林の中を辿って去年10月以来の山頂と再開。
懐かしい。今日は雪の無い姿だ。
整然とした広い山頂台地は一面深い樹林に包まれ静寂が支配している。
しばらく森の精気を分けてもらう。
下りは来た道を1時間弱でテントまで戻った。
1,849m峰から信濃俣まで
20分でテント撤収し、荷を担いでいよいよ縦走だ。
藪の無い快適な尾根をまずは少し下降する。
鞍部から緩やかな上りが続き、1,913m峰を越えると明るい林の中にヌタ場があった。
足跡から森の動物たちが人知れず行き交う姿が想像できて面白い。
ここから幾つかの小さなアップダウンを経て、左側がナギの頭となった場所に出た。
眼下の大根沢の向こうに諸沢山、不動山、黒法師岳が重なり、深南部の光景が広がる。
登りが続くようになり、またナギの縁を通る。
ここからも似た風景が広がる。ガレの縁を飾る赤の紅葉が映える。
ナギの先のピークからは方向を変えて一旦下り、急な登りを越すとまた左手のナギが稜線まで達している個所に出る。行く手の方向には信濃俣が大きく迫り、風格がある。
このナギの直ぐ先が2,107m峰で、信濃俣河内のカバ沢と小沢を分ける顕著な尾根が北東に向って張っている。
この峰でしばし休憩。明るく広い気持ちの良いピークだ。
2,107m峰からは進路を真西に振り、高度差70mを下ってから緩いアップダウンを幾つか繰り返し、2,058m標高点の少し先から本格的な上りとなる。次第に森林が深くなり、多少の藪も出てくる。
時おり藪漕ぎがあるが長く続かない。
遅い速度で一歩ずつ確実に登り詰めて行く。
テン場からここまで踏み跡はまずまず明瞭だ。時々テープなどコースサインもある。
寸又川右岸の山脈よりはるかに歩き易い。
しかし、椹沢山に近づくにつれ尾根が広くなり、踏み跡は不明瞭となる。
時々道を外すが、鹿道が行く筋もあり、適当に繋いでいく。
全般に踏み跡は明瞭な方だが、人が作ったのであろう道を外しても全く問題はない。
鹿道など、獣たちの作った道も歩き易く出来ているからだ。
低く張った枝などを越える時は人間の背が高いので多少苦労する程度の差だ。
だだっ広い樹林に覆われた椹沢山には南からの顕著な尾根を合する。道標が2,3ある。重要なジャンクションピークとなっている。テントにも良さそうな場所だ。
山頂からは進路を真北に変え、緩く下ると地形図通り西側がガレ場となった草原の鞍部に出る。
深南部らしい草地とガレからは西に池口岳の双耳峰が格好良く聳える。
池口岳南峰から千頭山に引いた長い尾根が魅力的だ。いつか辿ろう。
鞍部から直ぐ北が信濃俣だ。
山頂には三角点がポツンとあるだけで、名板は見つからない。
山並みが見えるがどの方向も枝越しにしか見えず、展望はいまひとつ。
信濃俣から百俣沢の頭まで
山頂からは北に標高差150mを一気に下る。
その途中からは光岳の広い山稜が大きく迫る。
鞍部からは次のピークの山頂までは登らず、30mほど登ってからピークの20m程下を寸又側に巻き進む。
その先尾根に復帰しまた標高差100m程下降し、2,101mの小さなコブを越えて、さらにいくつも小さな高まりをアップダウンしていく。
少し藪があり、踏み跡が稜線の左右どちらかの斜面に避けている個所がある。
長く単調に歩を進め、やっと百俣沢の頭への上りとなる。
途中、信濃俣河内中俣沢が右眼下に俯瞰できる場所がある。
そこからは明日通る予定のイザルガ岳から南東に垂下する尾根が1,906m峰あたりまではっきりと見渡せる。
明日の尾根下降に備えて、ここでよく観察をしておく。
上りが長く続くようになり次第に木が高くなってきて、森林美が素晴らしい。
Y本さんが少々疲れ気味になってくるがもうひと頑張りしてもらう。
山頂手前の広い緩斜面では道は大きく蛇行している個所があるがテープに導かれ進路は明瞭だ。
台地状のところに乗りあがり帯状の高まりを越すとそこが百俣沢の頭だった。
この時点で私は、深南部の主だった2つの尾根(光岳から寸又川右岸の池口岳、中ノ尾根山、黒法師岳、バラ谷ノ頭、高塚山、京丸山へと、光岳から寸又川左岸の大根沢山、大無間山、尾盛駅へ)が全部歩いて繋がることとなり、感無量だ。
百俣沢の頭は深い樹林に包まれ展望は全く無いが、この静かな縦走路で今までの深南部を歩いた記憶の余韻に浸る。
このころからガスが掛かり始め、午前中の晴天はどこかに行ってしまったようだ。
Y本さんは久し振りの長距離縦走に、それと昨日の慣れない沢歩きが重なり、疲れが出たようだ。
百俣沢の頭から光小屋まで
ゆっくりした歩調で光岳に向け出発。
一般道なので歩き易い。
緩く広い尾根を単調に進み、やがて明確な尾根を進むようになると、右手にイザルガ岳方面が望める個所に出た。
しかしいつの間にか掛かり出したガスで下方の尾根筋しか見えず、風景は冴えない。
下りに転じるとハイマツが現れた。
すでに高山帯となっている。
下りだして直ぐの樹林の途切れた場所で休憩を入れる。
すると、急に前方のガスが消え、見る見るうちに視界が広がった。
大きく光岳の姿が現れ、さらにイザルガ岳も望めるようになった。
渦巻くガスの流れが刻一刻と変化して美しい。
広いハイマツと砂礫の中を進み、少し登って樹林中で光岳の道に合わさる。
光岳へは明日行くこととし、光小屋へ。
テント場にはテントが無い。
Y本さんの疲れは相当のようで、今夜は小屋泊まりとする。
快適な小屋には登山者が2組3人しかおらず、それぞれ好きな場所に陣取っている。
Y本さんは着くなりシュラフに潜り込んだ。
水場で今夜と明日の水を8L汲んで来てひとり夕食を作って食べる。
夜はガスが掛かり、風も出て寒い。
明日に期待して早々に就寝。
【行程3日目】行動時間 10時間20分 天気 晴れ
光小屋5:25?5:45光岳5:55?6:10光小屋6:25?9:40イザルガ岳6:50?8:30 1,906m三角点8:45?1,239m峰10:40?11:00信濃俣河内本流・中俣沢出合11:25?12:30蛇行地点の尾根(標高1,130m)乗越?15:05信濃俣大吊橋15:10?15:45畑薙第一ダム
光小屋から光岳往復
朝、光岳へ往復する。途中で富士山の右から日の出を迎える。
誰もいない光岳山頂で聖岳方面の眺めを楽しむ。深南部方面の山並みは樹林で見えない。
光小屋からイザルガ岳に登り、信濃俣河内本流・中俣沢出合へ尾根を下降
小屋を6時半前に出発し、木道を過ぎた先でイザルガ岳へと登山道を進む。
イザルガ岳山頂は広く、大展望が広がる。
茶臼岳、上河内岳、聖岳など、ぐるりと見渡せ、南に目を向ければ昨日辿った稜線が良く見える。
さてこの山頂からはいきなり道が無い。
山頂の砂礫帯の東端から南に向けハイマツを漕ぐ。僅かで一段下の空いた空間に出た。
そこからハイマツを避け東側に移り、傾斜が落ちている境目を行く。
上手く空間が空いており、たいしてハイマツを漕ぐことも無く山頂台地の南東端に出た。
急な広い尾根をここから標高差150mを下るが、鹿道が斜めに通っていたりして簡単に降りられる。
これから下りようとする尾根の膨らみが見渡せる。
急な下降はダケカンバの明るい林で藪は全く無く、短い草地を下りるが進行右手は急崖で稜線までナギが達している個所もある。
ナギからは中俣沢を隔てて雄大な展望が得られ、信濃俣、大根沢山の眺めが素晴らしい。
傾斜が無くなると、コメツガ、シラビソなどの針葉樹に包まれた尾根となり、展望は無くなる。
殆ど藪は無く、尾根が痩せると踏み跡が続いている。
時おり青色のビニールテープがあり、それなりに通る人がいるようだ。
2,252m峰の手前は地形図で見たよりも尾根は痩せている。
その先の下降は尾根が広がり、進路に注意する。
高度差100mほどで傾斜が落ち着き、緩やかになった尾根を単調に下降する。
やがて殆ど平坦な樹林を進むとますます尾根の幅が広くなり、1,906m三角点に出た。
ここで休憩。静かだが特徴も展望も全く無く面白味の無い三角点峰だ。
三角点の先では注意がいる。
尾根がさらに広くなり、どの方向が進もうとする尾根なのか判然としなくなる。
南に下がる尾根に釣られないように慎重に方向を定める。
左に行き過ぎてもダメ。
幸い、今日は快晴で、遠くの山が目標となる。
深い樹林が邪魔をし、山並みは殆ど見えないが・・・。やはり経験と勘も大事。
うまく目標の尾根に乗った。急な尾根をどんどん下降する。
標高1,650mあたりで右(中俣沢側)からガレが稜線まで達している場所に出た。
ここを慎重に越え、さらに下降すると、こんどはちょっとしたギャップがある。
上から除くと微妙に通過できそうに無い。
そこで、少し戻り中俣沢側にルートを求めると、獣道が上手い具合にザレの中をトラバースして尾根に復帰しているのでこの道を利用させてもらう。
今回の山行でもやはり鹿には時々出会う。この尾根でも一度見た。
ギャップを無事渡ってさらに50mほど下降して尾根はやや左に旋回するが、ルートは右方向に採る。
樹林で見えないが進んだ距離感と方向感覚で、尾根を外して、山腹を急下降する。
大きな苔蒸した礫が重なっていて非常に歩きにくい。
尾根らしくなると傾斜が落ち着き、また歩き易くなる。
途中でマムシが真ん中にいて、もう少しで踏むところだった。慌てて後ずさり。
だがマムシは全く逃げず、尻尾をガラガラ蛇のように立てて鳴らし、威嚇している。
だんだんと傾斜が緩くなると左前方が明るく開けてきた。
標高1,400mあたりで、信濃俣河内本流側の斜面が大崩壊しているガレの縁に出た。
眼下に樹林の中の信濃俣河内の流れが俯瞰でき、はるか高みの稜線が青空に映えている。
このガレの頭からさらに下降を続け、標高差150m余り下りると、1,239m峰への狭い鞍部を通過する。
20mほど上り返すと、山頂に壊れた祠がある。
ここで左折し、本流と中俣沢の出合を目掛けて急な下降をする。
下部に行くほど、急な傾斜で進むのが難しくなってきた。
もう眼下に中俣川の流れが見えている。
小尾根をひとつ左に移り、枝に掴まってなんとか懸垂下降せずに降りついた。
本流出合と小沢出合のちょうど中間だ。
降りついた左岸は河床から少し高く、絶好の泊まり場になっている。
本流・中俣沢、中俣沢・小沢の両方の出合が見渡せる。
明るく陽光の射す中、しばらく休憩。
今日は清らかで澄んだ綺麗な水の色をしている。
ハイキング装備から沢装備に支度替え。
信濃俣河内本流を下降し畑薙第一ダムへ下山
広く穏やかな流れを辿る。勾配は殆ど無く平坦に近い。
やや両岸が迫っている個所もあるが、河床は広く穏やか。
何度も渡渉を繰り返し、順調に進む。標高1,080mで蛇行している部分をショートカットするべく、張り出した尾根の鞍部を目指して鹿道を辿る。
比高80mほどだが非常に急で、枝に掴まりながら無理やり上がる。
稜線直下でどうも上流側の出合からくると思われる杣道が左から現れ、這い上がる。
右に僅かで広い鞍部に達した。
ここから杣道はほぼ水平に左岸を巻いている。
しばらくそのまま歩いていくが桟道が崩れ落ち、不安定なトラバースも続くため、道を外し本流に下降する。
最初傾斜が急で、ロープを使って懸垂下降する。下方ではゴボーで川原に降り立つ。
降りつくと変だ。そう川の水が1日目の茶色く濁った色だ。殆ど変っていない。
どうしたことだろうか、恐らくシートカットしたところから西河内出合の間で本流に何かが起こっているのだろう。興味が湧くが確かめられない。
紀伊半島のような大雨の影響でデブリか堰き止めでも出来ているのかも知れない。
さて、ここからは1日目に辿ったルートだ。
少し風があるので、暑くも寒くも無い快適な陽気。
行きとは別の場所でまた良く熟れたサルナシを味わい、山葡萄も甘酸っぱい。
堰堤で少し休憩し、四方に散らかった流れを好きな場所を選んで下降する。
Y本さんが渡るのが怖く、気にしている傾いた吊橋が見えてきた。
バックウォーターで登山靴に履き替え、山腹道を辿って傾いた吊橋へ。
しかしいざ来てみると案外平気で帰りは渡っている。
ジグザグの急坂を凌いで林道に出ると、Y本さんはほっとしたのか「やっと帰れる」と安堵の様子。
計画通り全て順調に進んだのだが・・・・・。
だらだらと壊れた林道を歩いてダムの少し手前の車に辿り着いた。
いつもの山行より下山時刻は少し遅い。
Y本さんにとっては今年の道の無い山行は初めてで、ハードだったようだ。
下山後のこと
帰路、白樺荘の温泉に浸かって汗を流した。
白樺荘では茶臼小屋の管理人さんT橋さんと山の話に花が咲いた。
帰り際、なんと白樺荘のロビーに飾ってあるのと同じ南アルプスの高山植物が咲き乱れる在りし日のお花畑の大きな写真をプレゼントされた。いつまでも大事に飾ろう。
今回の山行でも自然と人と出会いに感謝でいっぱいの充実した気持ちで山行を終えることができた。
来年は是非茶臼小屋に泊まりたいものだ。Y本さんは来年行くよ。
ただし、私は少し一般道を離れたコースがやはりいいかな!