残雪期縦走@北アルプス・十石山から安房峠、アカンダナ山へ

一般登山道の北アルプス主稜線では、焼岳、十石山間は整備されていないようだ。しかしこの間にも面白そうで、展望が期待できそうな山々が並んでいる。
今回、焼岳と乗鞍岳の間にあって、残雪を利用すれば登り易そうな十石山から安房山、アカンダナ山を平湯側を起点に巡ることにした。

【行程1日目】行動時間 5時間20分 天気 曇り午後小雪 稜線ホワイトアウト風強し

平湯ゲート6:10?国道1,640m地点7:30?7:50北西尾根取り付き点8:00?8:35 1,869m8:50?県境稜線11:05?11:30十石峠避難小屋

?乗鞍岳や上高地、穂高連峰の山々の展望を期待して前夜発で出発。一路平湯に向う。
安房トンネルが出来て、旧道となった国道158号の冬季通行止めゲート前に4時頃到着する。仮眠するが時々小雪が舞い、天気が思わしくない。
朝明るくなると、山はガスで見えない。しかし西の空を見ると少し青空が覗いている。

ゲートから北西尾根取り付きまで

国道158号を辿る

6:10出発。直ぐ前の斜面は笹が出ていて登る気になれないので、折り返して長々と続く国道を歩くことにする。
35分で鉄塔の巡視路が上がってきているカーブに着く。
だんだん道路上に残雪が多く残るようになり、雪の無いところは朝の冷え込みで凍っていて歩き難い。
やがてすべて残雪で覆い尽くされた国道をゆく。
安房峠越えのこの国道は新しいトンネルルートが出来るまでは過去何度も車で通った道だが、歩いて通るのは初めてだ。過ぎ去った年月が懐かしい。
安房平の広く緩い平に出ると、目的の尾根が正面に迫って来たが、上半分は厚いガスで隠されている。
早く晴れないかと気を揉むがどうしようもない。

北西尾根よりアカンダナ山方面

朝のつかの間の晴れ間はいつの間にかどこかにいき、県境稜線は低く黒い雲が覆っている。
標高1,640m、小さな橋を渡った先で国道を離れる。
この小川の右岸台地を緩やかに登る。
今日はよく雪が締まっていて、全く潜らず楽だ。
樹林帯の中、北西尾根末端の右寄りに出て小休止。国道から20分ほどで着いた。

北西尾根取り付きから県境稜線

取り付き点周辺には3本の木の幹に赤色ペンキが楕円形にべったり塗られている。
針葉樹で覆われた尾根は一段上がってからはかなり急な登りとなる。

県境直下の樹氷

アイゼンを着けてガシガシ登ってゆく。いきなりの急登で息が追い着かない。
ペースを整えゆっくり取り組む。
取り付きから標高差150m余り登ると1,869m地点だ。
ここで直角に左折する。朝飯を少し食べる。
南側の山が正面に見える筈だがガスで見えない。
ここからは少し傾斜が落ちて楽になる。
しかし部分的に急な個所があり、斜面を選んで時には電光形に大きく左右にジグザグをきって高度を稼ぐ。
針葉樹の森の中を単調に上がっていくと、背後に安房平の雪の白く丸い円形とアカンダナ山がガスから抜け出し、見えてきた。

十石山山頂から乗鞍方面

北西尾根途中の2,188m地点は気付かずに通過し、その先でガスの中に突入した。
風が出てきて、体感温度が寒くなる。
ガスがとれると、左手には県境近くの荒々しい岩稜が対岸にガスの合間から見えている。
さらに登ると、ダケカンバの大木に樹氷が付き、幻想的な風景となる。
ガスが濃くなり、樹氷を纏った木がスーと現れてくる様はなかなか絵になる。
県境の手間で尾根は左に旋回し、針葉樹は無くなり、進む尾根上では雪で綺麗に作られた三角形の頭を壊して進んでいく。
左手は結構急なようだがガスのため高度感が無い。稜線の出る前に寒さに備えて厚着する。

県境稜線から十石峠避難小屋

十石山から朝の穂高連峰

県境稜線に達すると、案の定強風となり、雪も降り出した。
ここで周りを見渡すと、雪面と空の境目の区別がつかないことに気付く。
ホワイトアウトだ。
計画では北の鞍部にテントを張る予定だが、この白さでは下降に利用する県境稜線の判断が困難だと思われる。
ここに荷物を置いて山頂へ往復する予定を変更し、取りあえず十石峠避難小屋を目指すこととする。
耐風姿勢をとるほどではないが、顔を東側に向けて進む。
稜線は木が無く、足元を見るとハイマツだ。
小屋まではほぼ登り一方なので問題はない。緩いコブを越えると、小屋が見えてきた。

2,113m手前鞍部より2,390m峰を望む

冬季の入り口は南西側にあるようだ。
南西に回ると、入り口のハシゴの下にストックなどが置かれている。
誰か先客がいるようだ。声を掛けると入り口まで来てくれ、入り難いハシゴを登って、荷を受けてくれた。
中は真っ暗だが目が慣れてくると意外と明るい。
男性一人の先客は写真を目的に白骨温泉から来られたとのこと。
ガスで小屋の位置が判り難く、コンパスを使用して辿り着いたとのこと。
しかし、今日のこの天気ではどうしようもないようだ。
計画通り鞍部まで行くかどうか一時間ほど天気を見ていたが、ますます風が強くなり、外はガスで真っ白。

急下降を終えた鞍部から霞沢岳

今日は無理せずこの小屋で泊まることとする。

小屋の中で

午前中に着いて時間がたっぷりあるので、テントを張った中で昼寝をする。
12時半過ぎから15時半頃まで3時間昼寝した。
明日に備えて、また今後の山行と繋げるルートを地形図より練る。
アカンダナ山周辺は凹地あり、微妙な高まりありで、なかなか面白そうな地形をしている。
午後4時半過ぎから6時前まで、ゆっくり夕餉とする。
外に雪を取りに出かけるが今日はやはり全く天気を期待できそうに無い。
6時半頃、小屋に当たる風の音を聞きながら就寝。

【行程2日目】行動時間 8時間00分 天気 曇り 午後一時みぞれと雷、下山前雷雨

十石峠避難小屋5:45(十石山5:50?6:00)6:05?県境分岐6:20?6:35 2,390m6:40?7:20 2,113m手前鞍部7:30?(2,165m西側をトラバース)?稜線復帰7:55?8:30安房山8:45?9:35安房峠9:45?2,019m峰10:45?アカンダナ山南東の凹地(標高1,960m、ザック残置)11:05?11:35アカンダナ山11:45?アカンダナ山北東県境の2,110m峰12:15?2,119m峰12:25?12:35ザック回収12:45?国道1,560m地点13:10?13:45ゲート

 十石山より安房山?

アカンダナ山、白谷山、焼岳

早朝、4時半起床。外を見ると黒い雲が多いが、東の空は少しオレンジ色が掛かって昨日よりはましな天気だ。
5時、写真を撮りに来ていた方は先に出発していった。
ひとりになった広い小屋の中で朝御飯を作って食べ、出発準備。
風はだんだん弱まってきている。
後片付けを済まし、外に出る。風があるが昨日よりましだ。
昨日登ってきた分岐より先は急下降になるため、ここでアイゼンを着けておく。
小屋より南に3分程度でだだっ広い十石山山頂。
乗鞍岳本峰は残念ながらガスで見えないが、猫岳や四ツ岳は良く見える。
上高地や穂高連峰、霞沢岳は見えるがやや白んでいる。

安房山手前より十石山

風があるので長い時間は休んでいられない。
6:05小屋を出発し、昨日登ってきた分岐を通過し、県境を南に辿る。
最初のピーク2,390mからは北に上高地と穂高が良く見え、岳沢の白もよく分かる。
ただ、背後には黒い雲が流れ、これからの天気に不安を感じる空模様だ。
このピークの直ぐ先は急に落ち込んでおり、滑落しないようにバックステップで慎重に下る。
その先も急な個所が多いが、バックステップは必要なく、早いペースでぐんぐん下る。
下の鞍部まで標高差300mを40分で下り着く。
ここでアイゼンをワカンに替える。
2,113mから左の高まりに入り、県境を離れる。

安房山山頂から焼岳

地形図を見ると2,165m峰を忠実に越えるより、左の斜面を巻いた方が楽だし、今日は天気がいまいちのせいでもある。
大きなシラビソ林の中をゆったり進むが、森がこのあたりは特に美しい。
概ね標高2,080mに沿って平坦に進むが、稜線へ復帰する手前は傾斜が急で、約20m標高差にして登ってから尾根に復帰する。
直ぐ下りに転じ、広い鞍部に出る。どこでも歩けるが、出来るだけ上り下りを少なくするため、先を見通して上り下りを最小限にする。
やがて広い尾根の登り一方になり、ワカンでは歩きにくくなってきたため、再びアイゼンに替える。
長い登りにだれて来た頃、立派な三角屋根の小屋のような建物が見えてきた。

雪の安房峠

他に立派な電波塔が2つ建っている。山の中に似つかわしくない。
その左手の高まりが安房山だ。
上高地方面を俯瞰しながらしっかり休息を取る。
風は弱く、昨日より気温が高くなってきている。
穂高や霞沢岳の山頂部には黒い雲が筋状に線をうねらせていて、なんだか怪しい天気だ。
嵐の前の静けさといった感じだ。

安房山から安房峠?

安房山から先は県境が直角に左に折れ、さらに下方で右に折れる。

暗雲が流れる霞沢岳と前穂高

折れた先ではさらに尾根が別れ、右の尾根に進まなければならない。
今回の山行ではトレースが全く無いので、下手な尾根に入らないように事前にポイントを地図で確認しておく。
今日は視界が効くので問題は無いが、うっかりしないよう判断して進む。
雪は適度に締まっていて、快調に下降する。
最後、安房峠へは尾根らしくなっておらず、若干左手に寄っていたため、微修正して安房峠に降り立つ。
車道は残雪で埋め尽くされ、最近人が通ったような気配は無い。
峠の茶屋は半分雪で埋まっている。
風も無く、しばらく休憩とする。

安房峠からアカンダナ山南東の凹地?

アカンダナ北東の県境より白谷山と焼岳

安房峠に降り着く前に対岸から尾根を眺めていたが、結構急な斜面状だ。
峠の直ぐ岐阜県側から正面の斜面に取り付く。少し雪が腐り気味になってきて、時々潜り、しんどい。
途中2回休憩を挟んでやっとの思いで急な斜面登りを終えて緩い台地に出ると、正面に岩場が見える。
疲れついでに岩の下まで登り、右にトラバースをする。
終える手前でスリップ。ピッケルで直ぐ止めた。
落ちても一段下の緩傾斜の台地で止まるのでたいしたことにはならないだろうが油断していた。
それから5分程度緩く登って2,019m峰到着。
標高差230mを登るのに1時間ちょうど掛かった。
昨夜はたっぷり睡眠時間を取ったのに疲れているのだろうか?

安房山(左)と十石山(右)

2,019m峰からは雪質が良くなり快適に鞍部へ、左の尾根に乗り換え、少し登って県境を離れる。
左の小鞍部を乗越し、30mほど標高差で下降して、アカンダナ山の真東側にある凹地状への入り口で荷を残置する。
標高は1,960mといったところか。
ここを起点に凹地を抜け、北側からアカンダナ山山頂に登り、折り返して県境に登り、2,119m峰を経由してここに戻ってくる計画だ。

アカンダナ山と東の県境稜線を周回?

進行方向の空が多く開けている方向に標高差30mを登る。

沢を一気に下降し国道に降り着く

緩い乗越で平坦になり、少し下ってアカンダナ山東の凹地の中に入る。
実に面白い地形だ。
しかし、意外と底は平坦ではなく、凸凹しているので、雪が無かったらとても近づく気になれるような場所では無さそうだ。
無駄に底に降りてまた登ることにならないよう、左右の斜面も利用して上手く巻きながら北上する。
アカンダナ山の真北で平坦に行くのを止め、左折してアカンダナ山山頂へ。
小さな板切れの標識がダケカンバの木に掛かっている。
北の白谷山と焼岳が眼前に迫り、美しい。
黒い雲が山頂のすぐ上に垂れ込めていて渦を巻いており、怪しい天気だが眺めていて飽きない。

平湯ゲートで山行終了

こんな雲の様子はなかなか見られない。
アカンダナ山の北の鞍部に戻り、緩く上りに転じ右に旋回していくと、いつの間にか県境稜線の2,100mのピークだ。
焼岳の右裾には広大な緩い雪面が光っている。
稜線を南下し、赤テープのある2,119m峰を通過して下りに転じると、急に雷が鳴り出した。
幸い、もう稜線は歩かないので安全だ。
みぞれも一時降ったがすぐに止んだ。
先ほどの踏み跡に出合い、これを辿って一周した。

平湯ゲートへ下山

ここから南南西に谷間を下降する。
最初は腐り出した雪に足を取られたりしたが、傾斜が急になると良く締まっていて、面白いように飛ばして下降できる。
今日は気温が低いので、落石や雪崩は心配なさそう。
100m下ると右側に白いラインが見える。
昨日北西尾根から観察しておいたザレだ。このザレの中を小走り気味に降りる。障害なるような邪魔な木も無く、まるで高速道路だ。標高差400mを僅か25分程度で国道に降りついた。
ここで雷雨となり、雨と雷の響く中、国道を辿る。
ゲートの真上を国道が通るところで巡視路に入り、下降すると分岐になり、左を採ると、安房谷のほとりに出て、「神の湯」の直ぐ下流側で車道に出た。
安房峠道路(新道)の下を潜り、アカンダナ駐車場分岐の直ぐ先で元の駐車地へ戻った。
「ひらゆの森」で温泉に浸かってから帰路についた。

下山後のこと

思ったよりも天気が悪く、快晴の青空の下輝く白い峰々を眺めてみたかったが、今回のような天気、特に2日目は暗雲立ち込める割にはあまり降られることも無く、美しくも不気味な空の元の山々を眺めることが出来て面白かった。小屋で人と泊まり合わせた意外、今回のルートは誰も来ていない。また最近来たらしいトレースも無かった。
有名な山々に囲まれ、しかも平湯温泉という一大観光地のすぐ側でありながら静かな山行が堪能できる面白いエリアだった。今度は焼岳、白谷山を歩いてみようか。

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