赤湯又沢温泉巡りと虎毛沢ダイレクトクーロワール
T嶋さんから山行計画が発表された。自分でも以前から少し調べていて興味のある虎毛山塊へ行くとのことで、また、山奥の温泉(野湯)入浴も加わった計画に迷わず参加させてもらった。
山々の標高こそ低いが、高松岳、虎毛山周辺はブナ原生林に覆われた尾根や沢が深く複雑に入り組み、沢旅には絶好の山域だ。
関西からは遠く行き難いが大勢で行けば2泊3日で何とかなるだろうと期待し出発する。
【行程1日目】行動時間 7時間10分 天気 曇り時々晴れ、午後雨
ツブレ沢右岸駐車地(491m)10:30 →11:20滝(520m)→11:40三滝沢出合12:00→14:30稜線乗越(高松岳‐虎毛山間970m)14:45→16:10赤湯又沢出合16:30→17:05?温泉地で幕営地探し(17:40幕営 830mあたり)
京都から延々930kmの道程を交替で運転し、11時間余りでようやく登山口に。これほどの長距離の車移動は始めてだ。天気はまずまずと言ったところ。
直に右岸を行く杣道となり、30分ほどで入渓。堰堤工事の飯場があり、脇を通過してなおも右岸を進むと最初の滝が現れた。
左岸より越えるとすぐに穏やかな流れとなり、少し早い紅葉を楽しみながら進む。左に曲がるころ、両岸が立ってきて、廊下状になり、砂地の浅瀬の中をジャブジャブと水を蹴散らして歩く。右に大きく屈曲したら終了し、今度は少しナメが出てくる。少しで三滝沢出合に着く。明るく日が射して気持ちよい。ここでしばらく休憩。三滝沢には滝が見える。
本流を離れ、左の三滝沢に進路を取る。滝は直登困難で、左岸の小尾根状の薮を辿りうまく滝頭に降りた。そこからは明るい川床をひたひたとみんな適当な間隔を空けてそれぞれマイペースで歩く。遠くこれから登ろうとする稜線が見え隠れしている。倒木にナメコが少し出ていた。秋の東北に来ている実感が湧いてくる。時々易しいナメ滝が現れ、歓声をあげながら奥に進んで行くと、長いナメも終わり、左岸側の稜線が近づいてきた。適当なところから右斜面に取り付いてほんの少しの薮漕ぎで稜線の登山道に到着。いつの間にか雨模様となってガスが掛かってきた。寒さも加わりみんなうかない顔をしている。寒いので休憩も短めに切り上げる。
少し登山道を南下しH内先頭で赤湯又沢を目指して支流源頭の薮に突入する。思ったほどの薮も無く直に流れに乗り単調に下っていく。稜線から20分程下ると、ブナらしき倒木にびっしりとナメコが顔を出していた。いっぱいのキノコを前に「今日はキノコ汁だ」とみんなから笑顔がもれた。「K下さん、もう3種類は完璧に覚えたのでは?」
さて、滑りやすくなった川床に注意しながらなおも下降し、16時過ぎに赤湯又川本流へ到着。少し夜行疲れが出てきたような?
さてここで問題が・・・・・。T嶋リーダーの過去の記憶によると確かこの上流に?いや下流に・・・? う?む。温泉はいずこに? そしてテントを張れるところは何処?
T嶋さんはみんなのために上流に下流に奔走されたが・・・・うん上流だ!間違いない。
みんなで上流に向った。川から湯気が上がっていて大いに期待が高まる。やがて夕方で薄暗くなった頃、温泉の湯気だらけの荒涼とした広場についた。自然の温泉地にみんな歓声をあげて喜ぶ。・・・で入れそうな良い溜まりはと・・・見つからない。それよりテントを張れる場所がない!
さらに暗くなってきて探す時間も無い。とうとう笹薮の上にテントを張ることに。
雨の中、やっとテントの中で落ち着いたころにはすっかりあたりは闇になっていた。
夕食は支流の飲料水が暗くて見分けられないので、「まあいいや、目の前の温泉水で調理してまえ!」。湯を使うには酸性だろうけどみな賛成のようだ。
採ったキノコも温泉で洗う。キノコのために持ってきた味噌でキノコ汁や炒めにして味わう。(ナメコ、ブナハリタケ、ナラタケ)。
おや、今日のI野さんキノコ食べるの? 次の日に他の人が大丈夫なら食するのでは・・・?みんなの分け前が減るでしょ!(実はたくさん採れたのでした)
そして今日のメインはおでん。それにしても温泉の湯で夕食を作ったのは初めてだ。味もまずます? でも秋のキノコの定番、ナメコはやはり美味しかった。
【行程2日目】行動時間 7時間40分 天気 曇りのち雨
幕営地8:20→9:20左岸台地の温泉、温泉、温泉・・・(670m)10:15→11:05虎毛沢出合11:10→13:10虎毛沢・春川出合13:20→ 15:05三滝15:25→16:00左岸台地(580m)
朝起きると昨夜からの風が強くて肌寒い。雨は止んでいる。上空には青空が覗き、雲の流れが速い。今日はいい天気になるのだろうか・・・あやしいな?
さて、まずは昨日到着が遅くて雨で入れなかった待望の温泉入浴だ。男は下段、女は上段に別れてそれぞれ温泉を楽しむ。今日の行動には昨日からの濡れた衣類に着替えないといけないが、外が寒いので温泉の中で着替える。温泉の温度は少し低いが満足できる範囲だ。そのぶん長湯を楽しむ。山中真っ只中の原生林の風景を前に至福のひと時だ。
出発は遅く8:20になってようやく身支度完了。昨日の出合を通過すること20分程で、いい温泉とテント適地があった。T嶋さんの記憶が蘇ってきて以前の場所のようだ。テントが1つ張ってある。主はどこかに出掛けているようだ。
早速温泉にドボン。背後の斜面から湯気があがり、細い溝を伝ってお湯が注がれている。なぜか自分のお尻の真下から熱湯が不定期に湧き出していて、時々熱くて飛びあがる。他の人は平気な顔をしている。どうもおかしい? 4人全員でグーたらしていて居心地の良さとお喋りでどんどん時間が過ぎ去っていく。
意を決して出発・・・・だがものの2分もしないうちにもっといい湯船発見!! 全員でドボン。
今までで一番快適な湯温と深さだ。もう時間はいいや・・・ とは言っていられないのでので出発。するとまた快適な・・・・・いやダメ!
またいつか来ることを願って未練は残るが強い決意で出発!
ここからは少しスピードアップし坦々と平凡な流れを下っていく。1時間ほどで両岸が少し立ってきてやがて滝の上に出た。下には大きな深い釜を従えている。よく見ると右から大きな流れを持つ滝が掛かり、虎毛沢出合だ。右岸をクライムダウンし、滝下の合流点を渡って虎毛本流の右岸へと進む。
ここからは広い河原歩きが続き、合間にナメやちょっとした渕が行く手に現れる。左岸右岸とへつったり、ひたひたとナメ床を自在に歩いたりと両岸の風景を眺めながら歩く。だんだん雲が多くなってきて足取りも速くなってくる。
午後1時過ぎ、虎毛沢出合から2時間余りかけて春川出合に到着した。山行に変化を持たせて面白味を増すために計画していた滝ノ沢越えは、温泉で遊び過ぎのためとっくに諦めていた。春川出合の虎毛沢側には橋脚の残骸が残っている。
さて今日はこの春川をここから遡って行けるところまで行こう。まずは橋脚の通っていたその先へ道を見つけに左岸斜面を上がってみる。道跡は見つかりそのまま辿っていくが、やがて薮が出て、そのうちに斜面と同化していて辿りづらくなり早々に本流に下降する。
穏やかな流れを見せる春川だが、意外と魚影が濃い。足元で時々跳ねたり、人の気配に浅瀬で右往左往している。
いつの間にか雨が強くなってきて、みんなこの天気に無言で黙々と早足で上流に向う。
長く単調な時間を過ごし、やっと三滝に到着した。名の通り3方向から支流が合わさり、滝を掛けている。なかなか豪快な滝で、しばし休憩とする。しかし何か変だ。地図と良く付き合わせしても合致しない。果たして三滝の位置は地形図と合っているのだろうか?みんなで検討すること5分で答えが出た。そう、地形図の水線の引き方が間違っているのだ。西ノ又沢は地形図の「三滝」の文字のすぐ東側にある等高線が開いているところを真っ直ぐ真東に流れている。地形図が尾根の広まりで表現されているのは間違いだ。問題が解決した。
三滝越えはまず西ノ又沢の滝を左岸から取り付き、中段で右岸渡ってそのまま先の春川左岸へと横に渡り、高巻し、その少し上部の川床に降り立った。
その後は小さな滝や釜を見ながら快適に進む。そして川床に格子状の紋様が鮮明に現れてきた。薄黄緑色に赤い縁取りをした四?六角形の縞模様が綺麗だ。どうしたらこんな地形になるものか興味が湧く。
流れは平凡で高度が上がらなくなり、幕場を右岸左岸に探しながら進行する。標高580m左岸の林床に張れるスペースを見つけ、16:00本日の行動を終了する。雨の中素早くテントを張り、乾いた衣類に着替え、温かい紅茶を飲んでやっと寒さから開放された。昨日に引き続き、今夜も焚き火は出来そうにないのが少し残念だ。
【行程3日目】行動時間 7時間40分 天気 晴れのち曇り
幕営地7:05→7:20二俣(600m)7:25→7:30?7:40滝右岸より越える(610m)→7:45泳ぐ滝(ザイル使用、620m?630m)8:00→8:25二俣(655m)→8:40休憩後滝左岸高巻(690m)9:00→9:40溝奥に滝、右岸高巻(790m?840m)10:15→10:25クーロワール入口(860m)10:40→10:55右上する溝(930mあたり)11:15→11:45滝(ザイル使用、1030m)12:05→12:40左岸高巻(1150m?1200mあたり)13:00→14:30頂上台地端→14:45山頂湿原→14:55虎毛山(小屋休憩20分)15:15→17:30登山口
夜中、外に出てみるとブナの梢から星空が広がっている。みんなに教えると否定され、どうも信用が無いらしい。まあいいや。
さて、朝を迎えるといい天気だ。今日はダイレクトクーロワールを登り切って、さらに登山道を下山し、その後駐車地まで車道も結構歩かないといけない。さらに長い京都までの車での移動が待っている。明日はみんな出勤だ。(T嶋さんはどうなのだろう)
気合を入れ、濡れた衣類に着替え7時過ぎ出発。まずは穏やかな流れの中を進む。右岸からの支流を過ぎるとすぐに、丸い滑りやすそうな滝が出てくる。釜に落ちないように右岸を危うくへつり、その後取り掛かりの少ない濡れたナメ岩をだましだまし登る。みんなうまく通過したと思ったら、その1段上には泳がないと進めそうにない緑色した釜があり、進行を阻まれた。
朝の早くからこの寒いのに泳ぎがあるとは少し参る。I野さんが泳いで滝に取り付き、ザイルを伸ばす。水流の右側の溝に沿って詰め上がり、後続を引っ張る。慣れたものだと感心した。その上は緩いナメ滝でスリップに注意しながら易しく登る。
次は都合よく左岸側に倒木の懸かった丸いナメ滝が静かに流れを落としている。それを使い這い上がる。
谷はその先で少し進路を北に振り、丸い緑色をした綺麗な釜が階段状に連続して美しい。釜にドボンしないよううまくへつりを交えながらみな思い思いに登っていく。
やがて最後の明瞭な二俣となった。本流は直進だが、我々は進路を西に取る。左に曲がってさらに15分程で進路が南に曲がる地点は大き目の滝となっている。ここで滝を眺めながら少し休憩を入れる。紅葉が綺麗だ。
滝を登るとさらに右に曲がった先にはもっと大きな滝がかかり、これは登れそうにない。左岸の小尾根を急登し、滝頭にトラバースして抜ける。その上はしばらく穏やかな光景が続き、溝状となった明るい色の川床を辿って行くと、奥に手がかりの無い低い滝が現れる。越えられないので少しバックして、高巻をすることに・・・・。雪で磨かれた壁の弱点を探し、笹を掴んで右岸の斜面を登って高巻する。案外長く尾根状の薮と格闘し、やがて急な立ち木のトラバースになり、ブッシュの繋がっていそうな斜面に目星を付けて下降したらうまく川床に戻れた。
さて全員揃って出発する。前方に急峻になった山肌が迫ってきて臨場感が高まる。直に、地形図で3本の流れの合流点と思われる地点を過ぎ、真ん中へ進行し、勾配が急になってきた流れをどんどん詰めていく。進行右側に小尾根状の地形が現れ、その先を目で追うと、どうも進路を左に振っているような感じだ。全員で相談した結果、少し戻ったところにある左岸からの枯れ沢ではないかということになった。ほんの2?3分バックしてその出合で休憩。クーロワールへと続く入口は非常に貧相だ。いつの間にか背後には北東の山並みが見えるようになってきている。
さてここからは見上げるような斜度のガラ沢を詰めていく。水流が戻り、細い流れを追っていく。標高900mを過ぎて、クラックの走る一枚岩のような場所の下に着いた。どうもこれを上がるのかな。取り付くと、下から見ているよりも手強い。溝に手を突っ込んでバランスを取り、割れ目に沿って右上を試みるが途中で怖くなった。I野さんにバトンタッチして先頭を行ってもらうが少し先で難渋している。見ていても怖そうだ。傾斜は強くは無いが滑ったら下まで落ちるだろう。ただでは済まない。上部の潅木に支点を取り、ザイルで後続を確保する。
その先I野、H内で右岸の潅木の中を登りながら高巻し、先の支流をトラバースして向こうの斜面へと繋ぐ。なおも登りのトラバースを続け、20分くらいで無事川床に戻った。後続する薮の中のT嶋さん、K下さんに声で進路を伝えて無事合流。振り向くと須金岳の紅葉や、遠く栗駒山方面が綺麗に見渡せて爽快だ。
登りを再開し、単調に登るのもわずかで、小滝が出てきた。登れるものが多いが、11:45に出てきた滝は難しいそう。T嶋さんが軽やかにザイルを伸ばし、荷揚げ後、みなプルージックで登攀する。標高は1,000mを越えている。さらに小滝を越えていくとまた越えられない滝に出会う。時間も推してきているので、左岸の潅木の中を巻き登ることにする。ところが、取り付いてみると、結構傾斜が急で、常に手で潅木を握りながら体を支えないといけないので疲れる。背後の風景を楽しむ余裕がない。紅葉で染まった斜面を猿のように移動しながら降り口を探しあて再び流れへ戻る。
また同じように相変わらず急な流れを追って詰めていくとまた滝だ。か細くなった滝に取り付いて左から越えようとしたが、もう少しのところで行き詰った。T嶋さんが左岸より高巻して上部に抜け、上からお助け紐を垂らしてもらって事なきを得た。
その上は短い草地とザレのミックスだが、浮石に乗ってずり落ちないようバランスで切り抜ける。やっと頂上台地の一端が目前に迫ってきた。背後に雄大な山脈を眺めつつ、最後の斜面を登って行く。気付くと、K下さん、T嶋さんはかなり下に見えている。天気は下り坂で雲が厚くなってきていて肌寒い。
I野さんとついに笹薮帯に突入し、やや左へ進路を変えて進行する。右手の方に勘で空間を感じ、10m程強引に薮を突破したら突如として湿原に躍り出た。I野さんも歓声をあげて喜んでいる。T嶋さん、K下さんを声で誘導し、全員湿原へ。緩斜面に広がる高層湿原は結構広く、狐色に染まっている。三々五々好みの場所を歩む。長かった沢登りの終わりに相応しい。木道に出たところに池溏があり、記念撮影。すぐに山頂で、快適な小屋で長めの休憩を入れる。十分休憩したが既にいい時間になっている。
秋色に染まった登山道を一目散に下山。今度はT嶋さん、I野さんが先頭、K下さん、H内が後ろとなって降る。下りが早いのは我が京都雪稜クラブの常套である!?
夕闇迫った頃、林道に降りついたが、まだまだ林道歩きが長い。黙々と速足で歩く。林道の分岐点のゲートでT嶋さんたちに追い着くが彼等はすぐ空身で駐車地目指し出発。どうせ戻ってくるのだからと、K下さんとはここからは歩調をゆるめて歩く。やがて背後からトラックがやって来て止まる。
工事関係者のおじさんが「どこまで行くの、乗ってけ」とずーずー弁で聞いてきた。これは助かった。駐車した場所がうまく伝わったかどうか言葉が怪しかったがラッキーだ。やがてT嶋さん達に追い着き、便乗への短いやり取りが終わったら、I野さんとH内が林道に残った。良く考えてみると何故・・・・?みんなで乗ったら良かったやん! もう遅い。少し歩いたが、疲れて林道端に座り込んだ。辺りが真っ暗になった頃、T嶋さんの車が戻ってきて荷物をピックアップし、何はともあれ帰路に赴くことが出来た。
帰りは道中に近い鬼首温泉へと立ち寄る。目の湯で400円を払い、汗を流す。露天から流れ星を見つけたが、I野さんも見つけていた。
ここから京都まで恐らく850km以上あり、みんな明日の出勤は果たして間に合うのだろうか?
仲間の寝息はあまり聞こえないがきっとみんな充実できたのだろう。「ありがとう、また行こうね」と思いつつ、遠方の沢旅の終わりに何故かつきもののいわゆる一種の「賭け」(間に合うかどうか)の時間旅行を楽しみつつ夜のハンドルを握った。