風越山から三ノ沢岳

登山地図を眺めると、木曽駒ヶ岳へと続く顕著な稜線のうち、宝剣岳、三ノ沢岳経由で木曽側に垂下する長い尾根にはルートを示す赤線の記載が無い。
少し調べてみると風越山まではハイキングコースが整備されているようだ。ではこの風越山と三ノ沢岳を繋いで百名山である木曽駒ヶ岳へ結べば、一般道より変化のある静かな山旅に適した面白い山行になりそうである。ハイマツの薮漕ぎがどの程度のものかも興味が湧く。
実は2年前、伊奈川本谷を遡行した後、この尾根を下ろうとしたのだが、その時は時間が無く割愛した。今回は登りで実行することが出来た。

【行程1日目】行動時間 9時間40分  天気 晴れのち時々曇り(夜雨)
駐車地6:40→6:50滑川渡渉6:55→8:20風越山展望台8:35→10:55天狗山 11:10→12:10蕎麦粒岳 12:30→2,368m峰13:40→14:20中三ノ沢岳14:40→16:20標高2,650m地点

駐車場で3時間余り仮眠し、出発。林道を下り、滑川を渡渉する。朝の冷気が清々しいが、雲海となっている木曽谷の上空は快晴のようだ。
滑川を渡渉し、1時間半で風越山へ。5分進んだところが展望台となっているが木曽側は樹林で見通しが悪い。風越山の登りで雲海の上に出て、すでに汗びっしょりとなる。今日は気温が高く、風も無く、この先暑さで苦しむこととなる。

滑川渡渉点

滑川渡渉点

風越山展望台

風越山展望台

風越山を出発し、深くなった樹林帯の日陰を緩やかに登る。途中、熊の爪跡や歯型がびっしり付いた、皮をバラバラにされたシラビソの木が薄暗い樹下で樹皮下のオレンジ色の木肌を晒している。いかにも近くに熊が居そうな雰囲気の場所だ。早く通過しよう。

熊剥ぎ

熊剥ぎ

続く広くなった平な場所は読図に注意が要るが、最近付けられた赤やピンクの目印が短い間隔で付けられているので迷うことはない。
広い尾根から地形図の1,784m鞍部を目指すがこの辺りから笹が深くなり藪漕ぎとなった。尾根の芯は良く茂っているのでやや滑川側を行く。鞍部に降り立つ直前は薮が無く、風が通っていて心地良いので少し休憩する。
鞍部からは最初緩やかに登り、やがて右手のガレ脇を通過すると急激な登りとなり、一気に高度を稼ぐ。この登りでは右手に蕎麦粒岳から南西に続くアップダウンの激しい尾根が望める。

蕎麦粒南西の尾根を望む

蕎麦粒南西の尾根を望む

急登を耐えて登りきった天狗山は穏やかな樹林に包まれた山頂で特徴も展望も無い。
天狗山から緩やかに登って行くと、標高2,250mで樹林が無くなり、背丈位の潅木帯となり、一気に展望が開ける。背後に御岳、乗鞍、左手に宝剣、木曽駒ヶ岳方面が良く見える。陽が当たり暑いので休み休み急登に耐える。

蕎麦粒岳手前より三ノ沢岳

蕎麦粒岳手前より三ノ沢岳

蕎麦粒岳に立つと、とりわけ目指す三ノ沢岳の展望が雄大だ。360度の展望が良い分、全く日陰が無くじりじりと日焼けして暑い。こういう日に限って日焼け止めクリームを持ってくることを忘れている。以前登った糸瀬山方面へ続く尾根はアップダウンが多く無雪期には無理そうに見える。
山頂からは北北西に下るが密生した細い針葉樹で見通しが効かず、2,250mから派生する支尾根に乗らないように注意して二ノ沢源頭の鞍部に下る。頻繁にあった目印のテープはこの下りからは殆ど見なくなる。
草が生えた鞍部からは歩きやすくなり次第に高度を稼ぎ、二ノ沢右岸の尾根のピークの広い台地から薄暗い樹林を抜けると、白骨化した明るい倒木帯となり、進路に頭を使う。

標高2,330mの倒木帯

標高2,330mの倒木帯

尾根の左斜面を巻き進み、最後は直登で2,368m峰に着く。やはり特徴の無い山頂だ。
2,368m峰からはしばらく平坦な樹林下を進み、高度差150mを登り切ると中三ノ沢岳に到着。ここまで7時間40分掛かっており、暑さで少し参り気味だ。それと、もう少し涼しいと想定していたので今回は水を4L弱しか持っていない。十分な水分補給が出来ない。
中三ノ沢岳で長めの休憩を終え、さてここから行けるところまで進もう。しかし最初の下りを終える頃、次第に薮の密生度が激しくなる。また次のピークは少し立ち気味で、その先も急に下っている。忠実に登るのは得策ではないので途中から巻くこととする。

中三ノ沢岳

中三ノ沢岳

中三ノ沢岳先の薮を進む

中三ノ沢岳先の薮を進む

鞍部からは尾根に石楠花とハイマツが混じるようになり、全く始末が悪い。尾根を忠実に辿るのはこの密生した薮のみならず、痩せ尾根に大岩の露岩も現れて、進行できなくなった。尾根の左斜面(滑川側)の急斜面を、木を掴みながら下り気味に巻き進む。稜線の高差30?40m下部を30分余り進み、次の鞍部の少し先で沢の源頭状の急傾斜の急登をこなして尾根に復帰した。
尾根に戻ってからも今度は本格的なハイマツの薮漕ぎが待っていた。疲れているので早くテントを張りたいところだが、全く張る余地は無い。ハイマツ漕ぎを1時間ほどひたすら無心に頑張って、やっとテント1張り張れるスペースが出てきてやれやれだ。

テント地 標高2,650m

テント地 標高2,650m

場所は標高2,660mの平坦地に出る少し手前の標高2,650m地点。少し傾斜があるがぽっかりと空いた砂地でまずまず快適だ。展望は最高で、今辿ってきた尾根が見渡せるし、伊奈川本流の落ち込みを挟んで空木岳方面の主稜線、遠くは御岳、乗鞍も一望できる。
夕日は雲が多く今ひとつだった。夜間9時頃から本格的な雨となった。

【行程2日目】行動時間 9時間25分  天気 晴れ時々曇り
標高2,650m地点6:15→7:20三ノ沢岳7:40→9:30宝剣岳9:40→10:30木曽駒ヶ岳10:50→11:30木曽前岳11:40→(上松Aコース)→15:40駐車地

昨夜の雨は止み、朝から良い天気だ。9月としては非常に暖かい夜だった。
下方には昨日歩いてきた尾根がすっきりと見渡せる。中三ノ沢岳のひとつ主稜寄りのピークはここから見ると中三ノ沢岳と同じように見えるが、実際は斜度があり、今回一番通過に時間を要した場所だ。

蕎麦粒岳方面を俯瞰

蕎麦粒岳方面を俯瞰

テント地の一段上からは三ノ沢岳へのハイマツの海が広がっており、三ノ沢岳の山体が朝日を遮っている。
標高2,660mの平坦な尾根を容易に進む。ここには踏み跡らしきものがあり、かつての道の名残のようだ。勾配が急になってくると尾根が判然としなくなってくる。ハイマツの少しでも薄い場所を選んで上に向うが、手強いところは横にトラバースしたりして迂回しながら進む。ハイマツが小さくなってきたので歩くには昨日よりか幾分楽である。
思ったよりも早く三ノ沢岳から南に伸びる尾根に合流した。合流点はピークになっていて展望雄大。標高は2,810m。前方に伊奈川源頭を挟んで宝剣岳から檜尾岳の主稜が朝日を逆光に長く横たわっている。伊奈川が尾根の下方を回り込んで流下しているのがよく分かる。三ノ沢岳へはもう僅かな距離だ。

三ノ沢岳と宝剣岳

三ノ沢岳と宝剣岳

ここからは、尾根の芯はハイマツや薮がうるさいので伊奈川側の斜面を巻き進む。15分程で、念願の木曽側の長い尾根を歩き通して三ノ沢岳に達した。風越山登山口から三ノ沢岳まで10時間45分。ほぼ想定どおりで登頂できた。
朝早いのか誰も居ない爽やかな山頂だ。滑川が一直線で落ちていくのが良く見える。今回のルートは始終この滑川流域を囲む形になる。
山頂で20分展望を楽しんで出発。右に伊奈川のカールを眺めながら極楽平まで来ると人で混雑している。宝剣岳山頂の狭い岩の上で展望を楽しみ、山荘で待望の水を買い、木曽駒ヶ岳に着く頃にはカンカン照りの暑さで参ってきた。
昨日登った尾根を左側に眺めながら、木曽前岳経由で下山の途につく。途中シラビソの森が涼しく気持ちよい。

森の道(上松Aコース)

森の道(上松Aコース)

敬神山荘に15:10着。水をたっぷり飲み最後の林道歩きで今回の周回山行を終えた。

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