南ア・栗代川

7月18日
栗代川出合9:20→第二堰堤11:50→取水口13:30→核心の滝14:00→ユズリハ沢出合(泊地)15:15
海の日の連休は、昨年に引き続き、早出川を予定していた。天気予報はよくなかったが、是非とも早出川に行きたいと思い、最終決断を引き延ばし続けた。当初の出発予定日をずらしたが、やはり天気予報は好転せず、急遽行き先変更となる。天気予報では南アルプス方面が比較的よいようなので、所の沢か栗代川に絞った。そして出発当日の昼に栗代川の計画書を作成し、あわただしく出発した。
 南アルプスは何といっても近い。智頭駅で十分に仮眠をとり、栗代川の出合に向かう。これまでの雨で寸又川は白濁している。地元の人の話では、栗代川も普段より水量は2倍くらいあるとか。さいわい、栗代川のほうは濁っていない。橋のたもとから左岸の小道を伝うと、さっそくヒルのお出ましだ。あわてて河原に下りる。登山大系には、取水口までは「ほとんど流水はない」とあるが、流水はたっぷりあって、ところどころやっかいな徒渉が出てくる。水はさほど冷たくないが、小雨交じりの天気で肌寒い。ワイヤーなど人工の残置物が多いのも気になる。残置物はかなり上流まで見られて、おおいに気分を殺がれた。途中、釣り人に2度遭遇する。
 今回、出発前の慌ただしいなか、いくつかのHPをみて情報を集めたところ、栗代川に来るひとはたいてい左岸林道から取水口におり、そこから溯行を開始し、林道が交差する地点で溯行を終了し、林道を戻るというパターンだった。我々は3日間の日程だったので、頂上まで行くことにしていたから、栗代川と寸又川の出合から入ることにしたが、みなが入渓する取水口が地図上のどこなのかが判然としなかった。これは溯行時間の計算にもかかわることで、気になっていたが、時間もなかったのでわからないままやって来た。(いま登山大系をみると、「八丁暗見」の手前に取水口が書いてある。最近、溯行図をあまり見ないこともあり、気づかなかった)2時間ほど溯行して、堰堤の残骸があった。さらに30分で二つ目の堰堤。左岸にロープが下がっていたから、ここから入渓かと思ったが、堰堤は3つあるという情報もあり、確信がもてない。そして入渓から3時間半してようやく立派な取水口にたどり着く。なんと右岸にはこれまた立派な道がついているではないか。すでに午後1時半、水量が多いこともあるが、とりつきまでこんなに時間がかかるとは思わなかった。
 この日の核心はこのあとすぐに始まる「八丁暗見」だ。一見、なんでもない2条2mほどの滝が核心だった。最初は右をハンマー投げで越えようとするが、手前の釜が深くてハンマーがうまく投げられない。N村くんが左にチャレンジする。滝の下は意外とホールドがあり、滝の上に抜けるが、ここの水量が半端ではないようで、長時間の格闘のすえ、見事突破した。(家に戻ってからこの滝の写真をほかのパーティのものとくらべると、水量が随分多いのがわかった。)あとは大した悪場もなく、ユズリハ沢出合に着く。休憩してから、溯行を始める。すでに午後3時だったので、テン場を探しながら歩くことにしたが、すぐに谷幅が狭まる感じだったので、少し早いがここで泊まりとした。行動時間は6時間、あとから考えると、この日はちょっとゆっくりしすぎた。手袋をとると、ヒルがいた。テン場にヒルがいたら大変だと思ったが、幸い何事もなく朝を迎えた。
 
7月19日
泊地7:00→鶴天7:50→ホウジロ沢出合9:50→核心とりつき12:00→核心終了14:30→林道17:15

 この日は長丁場になりそうだ。水量は昨日にくらべて減っている。出発してすぐに曲り淵が出迎える。ゴルジュの両岸からは支流が見事な滝になって注ぎ込み、美しい。左岸から岩が川面を覆うように張り出し、川が右に屈曲した先が鶴天である。見栄えのする滝だ。I野さんが空身でとりつくが、わけなく突破。実際、行ってみると、水際も容易でロープも要らない感じだった。その先のチョックストンをショルダーで越えると、沢は開け、穏やかな河原となる。ここで寝たら快適だろうなあ。すこし陽も射してきた。
 その先はふたたびゴルジュ状となる。竜言淵だ。といっても大して困難な箇所はなく、あっさり抜けてしまう。ついで、栗代川最大の難所である、竜神の瀬戸。深い深いゴルジュで、左岸から立て続けにすだれのような滝が落ちてくる。やがて奥に先行パーティが見えた。どうやら核心部のようだ。すぐに続いても待つ場所がなさそうなので、1ピッチ手前でしばらく休む。まずは流れの厳しい淵をI野さんが突破したが、その先で進路を探っている途中にすべって流れに押し戻され、もう一度とりつく。ロープが短いこともあって、先行パーティがいた地点までは行けなかった。急流を跨いで屈曲点までくると、その奥には大きな淵と滝が見えた。四囲は衝立のように岩壁がとりまき、陰惨な光景である。せめて光でも射してくれればいいのだが、あいにく空は厚い雲で覆われている。すでに先行パーティは滝の右の凹角をコルにむけて登っていた(結局、このパーティとは言葉を交わすこともないままになった)。N君がすこし淵を泳いで小リッジにとりついた。そこから僕がワンポイントのリードで、残置ボルトまでトラバースし、懸垂で下りた。懸垂したあとロープが回収できず、5mほど切るはめになった。回り込んで再び登って回収することもできないでもなかったが、時間もないのでやめた。家に帰ってから知ったことだが、本来は滝の右から滝そのものを抜けることができたみたいで、先行パーティが行ったルートはエスケープルートであった。我々はそんなこととは知らず、しかも絶望的に行程が遅れていることもあって、滝のほうは見に行こうとすらしなかった。コルは非常に狭いところだったが、ゴルジュを俯瞰するには最高の場所だった。反対側へ2回懸垂し、川に下り立った。これで核心は終わった。が、すでに2時半である。今日は稜線まで上がるつもりだったが、とても無理だ。それどころか、林道まで行けるかどうかも怪しくなってきた。最後にもう一度、釜でロープを出す場面があったが、そのあとは開けたゴーロ帯が延々と続き、先を急いだ。午後4時半にシュウモト沢出合につく。そして午後5時すぎ、ようやく橋がみえた。10時間も行動したので、足が重い。林道泊に備えて水を汲み、橋のかなり手前で林道にあがる。そのころから雨が降ってきた。橋のほうへ偵察にいくが、林道は崩壊によってばっさりと断ち切られていた。なんとなくヒルのいそうな場所であったが、雨もきつくなってきたので、あわててタープを張った。まさに間一髪とはこのことで、そのご雨はかなりきつくなり、川の水量は激増した。ラジオの天気予報を聞いてみるが、よいような、よくないようなで、いまひとつわからない。天気がよければ頂上へむかい、悪ければ林道を下りることにした。

7月20日
泊地7:10→1700m二俣10:00→稜線11:40→大無間山12:15→三方峰13:20→林道17:00→栗代川出合21:00

 7時すぎに出発。橋の下から溯行開始するが、すぐ先の滝が登れず、いったんもどって林道まであがり、橋を渡って懸垂で川に戻る。そこから上は、基本的には岩の詰まった急傾斜の沢で、ほとんど水に触れることなく、ひたすら高度を上げるのみである。沢的には全く魅力はないだろう。大きな滝が二つほどあり、二つめの滝を大きくまいたところ(標高1700m)に小さな二俣があり、そこから傾斜が緩くなる。ついで1790m二俣。沢は荒れて倒木に覆われている。このすぐ上から、左岸の笹藪に逃れる。なんとなく踏み跡があり、やがて徐々に顕著になった。縦横に交差する踏み跡の歩きやすそうなところを選んでいく。やがて、コルが見えた。
 コルでしばらく休憩し、荷物を置いて、頂上へ向かう。かなりへばっていたが、荷物がないと足取りも軽い。最初の急登は辟易したが、その後は緩やかで気持ちのいい道だった。大無間山でエアリアマップをみていたとき、帰りの林道が予想以上に時間がかかることがわかった。そもそも僕自身はエアリアを持ってきておらず(ここが載っているとは思っていなかった)、大無間から稜線づたいにとりつきまで下りるつもりだった。ところが、I野さんがエアリアを持っていて、大無間から西へ林道に下りられることが判明、そちらに行くことにしたのだが、ちょうどエアリアの切れ目で林道がどれくらいの長さがあるのかわかりにくい。前日のテン場で「2時間くらい」とI野さんが言ったのを、誰も確認するわけでもなく、なんとなくそんなもんかと思って行動していたのだが、このとき計算するとなんと5時間もかかることがわかった。もしこのことがわかっていたら、頂上まで来なかったかもしれない。ともかく林道までもけっこう時間がかかるので、先を急ぐことにした。コルで荷物を回収、ときおりガスが晴れて、景色が見えた。エアリアに「迷」マークがついているとおり、三方窪から先のトラバース道はきわめて不明瞭で、しばしばルートを外した。夕暮れも迫っていたので、慎重に方向を見据えながら軌道修正する。なんとか稜線の道に合流し、林道に着いたのは午後5時。すでに疲労困憊していたが、ここから長い長い林道がまっている。最初の1時間が長かった。それほど荷物は重くなかったのだが、ザックが肩に食い込む。先のことを考えて、力も、それに食料もセーブしなければならない。一回目の休憩のときは、果たしてこのさきどうなることかと心配したが、人間の体というのはなかなか適応力があるようで、辛い単調な林道歩きも、なんとなく慣れてきた。あとは惰性でぐんぐん歩き、コースタイムより1時間はやく、午後9時に車にもどってきた。近くで開いている温泉はなく、浜松まで出て銭湯に入り、遅い晩ご飯を食べると、もう2時くらいになっていただろうか。ちょっと仮眠して早朝に京都についた。長い林道歩きで、沢の記憶はすっとび、なにか林道歩きをしにいったような気分だったが、写真をみて徐々に沢のことを思い出しながら、記録を書いた次第。

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