北信・堂津岳、地蔵山

二十万分の一地勢図を眺めていると戸隠、高妻の山系と妙高、火打の山系の間に標高2,000mを超える地蔵山が真ん中に位置している。地蔵山を中心として東には黒姫山が大きく、西には堂津岳がある。堂津岳のさらに西は北アルプスの長い連峰が連なる。地蔵山はこられ全ての山々を眺めるには絶好の位置にあるということに地理的な興味が湧く。しかも地蔵山は有名な山では無さそうである。登山道もないらしい。一方、堂津岳も裾花川流域、ニグロ川流域の分水嶺に近く、西側は深く落ちている。どこから登っても奥深い位置で、これも展望が良さそうである。
そこでこの地蔵山と堂津岳を地形図からよく観察すると、地蔵山からの尾根が堂津山の方向に向いて都合よくニグロ川東俣に垂下しているのが分かる。その先の西俣の河畔には堂津岳の北の1,845m峰から続く支尾根がこれも都合よく西俣の河畔に垂下してきている。
そこで、この二山を1泊2日で登ろうと計画した。計画に当たって帰路の林道が嫌だが、地蔵山の北麓を尾根、沢、山腹の弱点を結ぶとうまく笹ヶ峰ダム近くの天狗山東方へと繋ぐことが出来る。
ただし、ニグロ川やゴウデ川の渡渉がうまくいくか少し心配だ。

? 

4月18日(土)快晴 行動時間9時間00分
笹ヶ峰ダム7:10→8:00天狗山8:10→9:05 1,670m峰9:15→9:45神道山10:00→12:10 1,950m峰(乙妻山、地蔵山尾根分岐点)12:25→13:15地蔵山13:40→14:50 1,810m峰15:00→15:30ニグロ川東俣の渡渉地点(スノーブリッジ)探し15:45→ニグロ川西俣河畔16:10

?? 朝は澄み渡って快晴だ。笹ヶ峰に近づくに連れ山々の風景の美しさに思わず歓声をあげてしまう。
道路は除雪され難なくダムまで車で入ることが出来た。
 ゆっくり支度するが、日差しが強い。他に登山者は居ない。まずはダムを渡る。残雪で埋まった対岸の階段を登ると大きな看板がある。この看板の裏側から残雪の尾根を登る。しばらくして尾根の芯に出ると雪が無く踏み跡が出てくる。痩せているところは地面が出ていてこの踏み跡を辿るが少し薮がうるさい。傾斜が緩くなった標高1,370m地点で休憩し、明日この地点に登ってくることになるであろう北側の斜面を観察するが、傾斜はそれほど強くなく、残雪で覆われているので問題は無さそうである。
 ここからしばらく雪の途切れた緩やかな尾根を西に進みやがて勾配が急になってくるとまた残雪上を行くが、クラックがあり、微妙に回避しながら登る。やがて天狗山山頂直下に達すると、南北に続く尾根に這い上がるのに高さ2m程の雪庇が邪魔し、5分ほど掛けてピッケルで足場を作って越える。越えてすぐ天狗山山頂だ。山頂からは北に焼山、火打山がダム湖越しに映えている。三角点には雪が無く薮に囲まれて出ている。
 山頂からは南に進路をとり雪の無い薄い踏み跡を少し平坦に辿ると尾根が広くなってきて、大きな凹地が現れる。凹地を左に見てやり過ごすとしばらくは登りが続く。尾根の東側の残雪を辿るが時々途切れてしまうため尾根の西斜面に進路を変えるが、どうも西側の残雪は膝まで潜り、つぼ足で疲れる。細い木の枝もザックに引っかかり通過しにくい。
出来るだけ東側の残雪を行きたいが長くは続かない。こんな具合が神道山の先まで続くことになる。
東側の展望はすこぶる良く、黒姫山を始終眺めて進む。広大な裾野と背後の雲海が雄大だ。
標高1,690m辺りの広い尾根からはこれから向う地蔵山が大きく迫り、青空に雪の白が映えて美しい。神道山手前の樹林帯では雪がよく潜り、少し難渋するが山頂に着く頃には快適な登りとなった。
神道山からは正面に乙妻山が尾根の先に一際高く聳えている。今日は快晴で気温が高く、風は弱く、非常に暑い。木陰で休憩とする。神道山からは緩いアップダウンが続くが、残雪がうねっていて微妙に比高3m程度のアップダウンに疲れる。今日は残雪の上に薄っすら踏み跡が続いているが時々はっきりしている箇所もある。誰か入っているのは分かるがいつだろうかと思っていると前方から単独の方が現れた。ちょうど1,892m峰で出会う。朝5時にダムを出発し日帰りで地蔵山を往復とのことで、人に出会うとは思わなかった。この辺りの山々によく行かれているとのことで少し情報交換。

神道山より地蔵山と乙妻山

神道山より地蔵山と乙妻山

ここから先はよく潜るとのことでこちらもワカンを着ける。相変わらす尾根の西側の斜面はよく潜り、辟易する。暑さと潜りと枝の掻き分けで疲れたころ地蔵山と乙妻山との分岐点に到着する。木陰でしっかり休憩とする。ここから見る乙妻山の西側はすっぱり崖で途切れていて、高さ40m位はありそうだ。雪が付かず、黒々としている。乙妻山から堂津岳へ県境を縦走してみたいが崖の通過にはザイルが必要そうに見える。

地蔵山手前鞍部より妙高、火打山

地蔵山手前鞍部より妙高、火打山

さて主尾根をはずれ、方位をそれまでの南西から北西へと大きく変え地蔵山との鞍部まで緩やかに下る。登りに転じて次第に傾斜が強くなるが、さっきよりも歩きやすい雪質になり、調子よく進む。快適に登り地蔵山山頂に着く。山頂は広く、針葉樹がぽつぽつと生えている。山名板は見当たらない。ダムからは5時間を要している。

地蔵山山頂より天狗原、焼、火打山

地蔵山山頂より天狗原、焼、火打山

期待していた展望は南に乙妻、高妻山、東に黒姫山、飯縄山、佐渡山、北には頸城連山の妙高山、火打山、焼山、天狗原山が雄大に眺められる。西側のみ針葉樹で見通しがあまりよくないが、明日登る堂津岳が背後の北アルプスの白と重なって分かりにくいが樹林越しに見える。その堂津岳は白く輝き、残雪たっぷりの様子だ。
誰も居ない山頂で十分展望を楽しんだら、広い尾根を西に向う。緩やかに下り気味にたんたんと進む。この尾根はやがて急速に西に落ち込み、地形図のガレマークに行き当たる。目的の尾根に乗るには傾斜が急になる手前で南南西下方に続く尾根を目指すことになるが、出だしはただの急斜面で尾根になっていない。今日は天気がよく見通しが利くので何の問題も無いが、ガスが出たら方向を定めるのには注意が要る。この下りだが傾斜がかなり急なのでアイゼンを着けて下るがバックステップの体勢をとるまでも無い。降りていくほどに傾斜が緩み、やがて地形図の1,845m手前の広場に着く。東側は針葉樹に囲まれただだっ広い凹地状となっており、凹地の上は空が抜けていてテント泊には良さそうな場所だ。

1810m峰より地蔵山

1810m峰より地蔵山

ここから方位を西に変え、残雪の上を快適に進む。針葉樹が多く、日陰が多いので暑さは凌げる。比高40m程登り、1,810mコブからは次第に急となる下降に転じる。こちらはブナ主体の明るい尾根で、進行方向に柳原山や松尾山、薬師岳の県境の山々と雨飾山もよく見える。標高差150mを下ると1,645m手前の広い鞍部となる。尾根を離れ、左の斜面をトラバース気味に下り、標高1,550mで尾根に戻り、東大門沢と西大門沢の合流点の右岸の台地に向う。しかし降りるに連れ、流れを見ると、流れの大きな音、多い水量に下流では渡渉は困難と分かってくる。スノーブリッジが見当たらない。

1645m手前よりニグロ川流域を俯瞰

1645m手前よりニグロ川流域を俯瞰

流れの縁は残雪の雪壁がオーバーハング気味に高さ2m程に達し、とても流れに降りつけない。
スノーブリッジを探すため、急遽東大門沢の上流側に右岸の斜面をトラバースし、流れを上から俯瞰して進む。10分ほど歩くと対岸へ雪の面が繋がっている場所に出たが今にも崩壊しそうでとても渡れない。さらに上に進むと、やっと渡れそうなスノーブリッジが現れた。標高1,520mあたりだ。真ん中は薄くなっているかも知れないので衝撃を与えないように恐る恐る摺り足で慎重に渡った。少し肝を冷やす。
ともあれ無事沢を越え一安心だ。左岸台地に上がり、続く西大門沢は雪面で覆われていて難なく越える。さらに台地へと上がると、この先は本当にだだっ広い雪原を西に横断し、ニグロ川西俣沢に辿り着いた。時間は午後4時を少し回っている。

気持ちの良い広い雪原の大木の下にテントを張る。ここからは明日登る尾根が見えている。西俣の流れの縁は雪壁になっていて近づけない。幸い、今日は気温が高いので近くの山側の雪壁からは溶け出した水が滴っている。コッヘルで受けると直に水が溜まるので水作りは雪からよりは楽だ。

ニグロ川西俣河畔でテント泊

ニグロ川西俣河畔でテント泊

今日は寝不足の上に9時間の歩きで疲れているので、晩飯のすき焼きを早目に作って食べる。少し日本酒を飲むと良い気分になってきて、ラジオも聞かずに早く寝る。夜中目が覚めると、梟のいい歌声が森に響いていた。一晩中鳴いていたようだ。

4月19日(日)快晴 行動時間8時間20分
西俣河畔テント地6:15→7:35 1,945m峰 7:45→8:10堂津岳8:35→8:50堂津岳南東の県境鞍部 標高1,720m8:55→(谷を下降)→9:35テント地10:10→11:00ニグロ川渡渉(標高1,345m)11:10→11:50 1,524m峰12:00→(アブキ谷下降)→12:35アブキ谷右岸台地(標高1,290m)12:45→峠状の地点(標高1,300m)12:55→13:10ゴウデ川渡渉(標高1,255m)13:15→14:05天狗山西尾根(標高1,370m地点)14:15→14:35笹ヶ峰ダム

今日も朝から素晴らしい快晴だ。昨日観察しておいた尾根の取り付きを目指して西俣右岸を少し上流へと辿るとうまい具合にスノーブリッジが掛かっており難なく渡ることができた。
尾根の末端は緩やかな台地となっていて、広くゆったりした尾根を登る。1,598mから少しほんの僅か下り、ここからはブナの生える尾根を本格的に登る。朝から日差しが強く暑い。1,845mピーク手前ではダケカンバの木が青空と雪に映えて絵になる。

1845m県境手前のダケカンバ

1845m県境手前のダケカンバ

1,845mへ登った瞬間、尾根の向こう側には北アルプス連峰の大観が待っていた。風が出てきて汗を掻いた体に当たり爽快だ。雨飾山が一段と近くに感じる。
県境稜線を南西に登る。最初の広いピークで堂津岳が見えた。残雪がたっぷりあり、東側に雪庇が張り出している。次第に尾根が痩せてきて、東側の雪庇に注意し西側の急斜面を巻いて行くが、スリップしないように少し緊張する。

堂津岳と北アルプス連峰

堂津岳と北アルプス連峰

予想通りテント地から2時間で快晴の堂津岳に着いた。奥裾花方面からのトレースは見当たらない。
適度な風で快適な山頂で展望を楽しむ。県境稜線を乙妻へと辿ってみたいが、昨日から眺めている乙妻山の西にある急激な落ち込みはここから見ても絶壁になっていてそこだけ雪が無く黒々としている。去年登った戸隠連峰もその右側に横たわっている。
十分展望を楽しんでさて出発だが、懸念している乙妻方面に繋がる県境稜線はこの堂津岳より急激に高度を落としている。山頂で観察していると何とか降りられそうなので探りに行く。稜線を南に200m進み分岐点から下を覗くと、少し南寄りから降りられそうだ。最初はバックステップで30mほど降りると、クレバスが横に走っており、避けるため左に振る。クレバスとクレバスの途切れ目を抜けてから今度は右に180度転向し、また左へ。これを2回繰り返してクレバス地帯を抜けた。あとはやや傾斜が緩み一気に飛ばして1,792mとの鞍部に達した。
広い鞍部で再び展望を楽しむ。ここからは左下に広がる西俣の源頭へ降り立ち、緩やかな雪の詰まった沢沿いを快調に進む。右からの支流が2本合わさり、水の流れが大きくなると元のテント地で、山頂からジャスト1時間であっと言う間に着いた。テント撤収をし、お茶を沸かして周囲の風景を楽しむ。

ニグロ川、裾花川分水嶺より地蔵山と妙高山

ニグロ川、裾花川分水嶺より地蔵山と妙高山

さて帰路だが地図で林道を見ると湖の北側を大きく遠回りしている。やはり林道では面白くない。
地蔵山北麓を辿るルートを地形図から見出しているが問題はニグロ川とゴウデ川の渡渉だ。天気もいいので濡れて渡る決心をして出発。だだっ広い西俣と東俣の扇状地を北に辿り、やがて進行左手に1mの残雪を載せた林道の橋が見えた。橋を渡りニグロ川左岸を北上する。川は離れていて見えない。
右岸には、地蔵山から北に伸びる尾根に1,524mのピークがある。その西側に張り出す尾根に取り付くべく、台地を離れ、川の望める台地の端に着いた。崖を下れる場所を見つけた。標高1,345m地点で、川幅のある浅い所を膝まで浸かり渡渉する。崖に生えた木を頼りに右岸の台地に上がり、さらに標高差170mを上がると目的の1,524m峰に無事到着。南に大きく地蔵山が望める。火打山も良い眺めだ。

ニグロ川渡渉点 標高1345m

ニグロ川渡渉点 標高1345m

すぐ北の鞍部からはアブキ谷を下降する。予想通り残雪で埋まっている。快適に下るがやがて所々で水流が現れ、急斜面のトラバースやスノーブリッで何度か気を遣う。川が緩やかになった頃、右岸の急崖を一段上がると目的の台地が広がる。台地を平坦に進み地形図の「1300」と言う標高表記のすぐ右の鞍部を越えて、さらに広い平坦な台地を東に渡り、問題のゴウデ川だ。ちょうど居る場所から細い尾根が続き、比高40m程を笹や潅木に摑まりながら降りることにする。降りる前に対岸の上がれる場所を観察するとやや下流側が有利と見た。川は水量が多いがニグロ川よりも楽に渡ることができた。標高は1,255m地点。

アブキ谷右岸台地 標高1290m

アブキ谷右岸台地 標高1290m

ゴウデ川渡渉点 標高1255m

ゴウデ川渡渉点 標高1255m

対岸の台地へはうまい具合に雪が続いていて、難なく上がる。台地からは標高1,290mのラインが緩い斜面で続いている。水平に進み右に旋回した箇所に2本の沢が続いてあるが何れも残雪で埋まっており容易に渡る。このあたりから木や枝に目立つピンクや赤の目印が出てきた。天狗山の北をやや登り気味に回りこみ、天狗山の東の尾根に登るべく急斜面を50mほど頑張ると昨日の尾根に繋がった。あとは踏み跡を辿り、笹ヶ峰ダムに辿り着くことができた。ダムサイトの芝生で寝転び大休憩とする。
今回は2日間天気に恵まれ、また思うように山行を展開することが出来た。いつものことだが、地形図からルートを見出し、実際にその通り辿ることが出来て非常に面白いし、自分らしい山行となった。また、現地に来て目の前に展開する山々を眺めつつ次の山行のルートを想像する楽しみも加わり一層充実した山行となった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です